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映画「沈黙」原作をより深化 山根・清心女子大教授が解説

「音楽は極力抑えられ、スクリーンから聞こえるのは潮騒、雨音、鳥や虫の声。スコセッシ監督の日本文化への深い造詣が感じられる」と話す山根教授

映画「沈黙 サイレンス」の一場面。ロドリゴ(左)とキチジロー=(c)2016 FM Films,LLC.All RightsReserved.

 拷問を受けるキリシタン、信徒の命と引き替えに棄教を迫られる宣教師。「主よ、あなたはなぜ黙ったままなのですか」―。公開中の映画「沈黙 サイレンス」は、名匠マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の小説に感銘を受け、構想から28年を経て映画化した渾身(こんしん)の作品だ。「人間の尊厳を問う原作のテーマを忠実に、より深めて描いた」とたたえる遠藤文学の研究者、山根道公ノートルダム清心女子大教授(56)に見どころを解説してもらった。

 物語は江戸時代初期の長崎が舞台。主人公の宣教師ロドリゴは、恩師が厳しいキリシタン弾圧に屈し、棄教したという知らせを受け、真実を知るため日本に潜入。そこで想像を絶する悲劇に出合う。

 まず山根教授は「遠藤もスコセッシも大きな宗教的葛藤を抱えていた」と両者の共通点に着目する。

 自らもカトリック信者だった遠藤は、西洋で育まれたキリスト教と日本人である自分との距離感に悩んでいたとされる。30代後半、結核で3度の大手術を経験して孤独や死と向き合う中で、苦しみに寄り添う神の存在を実感。「強く威厳ある西洋のキリスト像に対し、小説『沈黙』で日本的、母性的ともいえる神のイメージを打ち出した」

 かつて司祭を目指したスコセッシもまた、「最後の誘惑」(88年)で人間としてのキリストの苦悩を描くなど、信仰と人間のあり方を模索してきた。遠藤の小説を読んで「まさに私が追い続けていたテーマで、自分が映画にしなければと思った」と語っており、今作ではその情熱が随所に見える。

 山根教授が挙げるのは、踏み絵を前にしたロドリゴが「踏むがいい」という神の声を聞く場面。過去の英訳本では「Trample!(踏みつぶせ!)」と命令形で訳されていたものの、映画では「Step on me(踏みなさい)」とされ、遠藤が示した「寄り添う神」により近い表現になっている。

 また、棄教したロドリゴが江戸のキリシタン屋敷で暮らす日々や、火葬される最期の姿までを映画は明確に描いた。空っぽになったロドリゴの人生を支えたものは何だったのか。「映画はこのラストによって、『人は誰も侵し得ない尊厳を持つ』という遠藤のメッセージを際立たせた」と評価した。

 拷問を命じる奉行役のイッセー尾形、屈折した通辞の男を務めた浅野忠信ら日本人俳優の存在感が光る中、窪塚洋介演じるキリシタンのキチジローはロドリゴを裏切り、何度も踏み絵を踏んでは懺悔(ざんげ)する。ロドリゴに「自分も同じ弱い人間」と気付かせる重要な役どころだ。

 山根教授は日本での公開前に窪塚と対談。「原作の行間から『善悪の分からないまま成長した人物』と捉えた」と役作りの秘話を聞き出した。「ロドリゴの視点で軽蔑の対象として描かれている小説に対し、窪塚さんは無垢(むく)で子どものような独自のキチジローを演じた」とみる。

 小説刊行から半世紀たち、あらためて映画が浮かび上がらせたのは愛と許し、寛容の尊さ。米国ではトランプ大統領が移民や異教徒を排除する政策を掲げ、日本でも不都合なものを忌避する風潮が漂う。山根教授は「世界が先鋭化し不寛容に向かう今、『沈黙』が問いかけるものは大きい」と訴える。



 「沈黙 サイレンス」は岡山メルパ、イオンシネマ岡山、TOHOシネマズ岡南、MOVIX倉敷などで上映中。

 やまね・みちひろ 1960年倉敷市生まれ。立教大大学院博士前期課程修了。近現代文学が専門で、特にキリスト教と深く関わった遠藤周作、宮沢賢治らが研究対象。2006年の遠藤周作研究会(現・遠藤周作学会)発足に尽力し、同学会事務局長を務める。





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